Column No.79 「2040年、あなたの街の「医療」が消える?」 -データが示す衝撃の真実と、私たちが迎える「在宅シフト」の正体-

先日、厚生労働省で医療関係職種12団体によるの安定的な養成・確保に関する検討会が開催されました。 厚生労働省.第1回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会.2026;https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73020.html

「少子高齢化が進むのだから、医療ニーズは増え続ける」。そう考える人は少なくありません。しかし、厚生労働省の将来推計を読み解くと、実際に起き始めているのは“医療需要そのものの縮小”です。外来患者数は全国的に2025年前後がピークとされますが、地域単位ではすでに2020年までに218の二次医療圏で減少局面に入りました。入院患者についても同様で、2035年には全国の約7割の医療圏で減少が始まると推計されています。つまり、多くの地域では「病院が足りない」のではなく、「患者そのものが減る」という局面に入り始めているのです。

一方で、医療を支える“担い手”も急速に減少しています。看護師養成所では定員充足率の低下が続き、作業療法士や理学療法士など他職種でも専門学校離れが進行しています。若年人口減少の中、「資格を取れば安定」という価値観だけでは学生を集められない時代になりました。これは臨床工学技士養成にも同様な課題となります。

これまで臨床工学技士は、集中治療、透析、人工呼吸器、手術室など、“病院内の高度医療”を支える専門職として発展してきました。しかし2040年に向けて、医療の主戦場そのものが変わろうとしています。

今後、急増するのは在宅医療です。特に85歳以上人口の増加に伴い、「治す医療(Cure)」から「支える医療(Care)」への転換が加速します。在宅人工呼吸器、在宅酸素、遠隔モニタリング、医療DX、医療機器の安全管理、サイバーセキュリティ――これまで病院内で完結していた医療機器管理は、地域・在宅へと広がっていきます。つまり、臨床工学技士もまた、「病院の中の専門職」から、「地域全体の医療機器と医療安全を支える職種」への転換が求められているのです。

さらに深刻なのは地域格差です。2040年には人口20万人未満の医療圏が大幅に増加し、地方ではフルスペックの医療体制維持が困難になると予測されています。人口減少が進む地域では、専門医療を単独病院だけで維持することは難しくなり、限られた人材を地域全体で共有する発想が不可欠になります。その中で、臨床と工学の両方を理解する臨床工学技士には、新たな役割が求められることになるでしょう。もはや「生命維持管理装置を操作する職種」という従来の枠組みだけでは、2040年の医療を支えきれない可能性があります。

そして、ここで私たちが直視しなければならないのは、「現場で頑張っていれば評価される」という時代が終わりつつあるという現実です。もちろん現場は重要です。しかし、人口構造、地域崩壊、診療報酬、養成校、制度設計、医療DX、在宅医療…これらは現場努力だけでは解決できません。社会全体を俯瞰し、制度そのものをどう設計するかを考えなければ、臨床工学技士どころか、日本の医療そのものを維持することができなくなります。

そのために必要なのが「政治参加」です。そして、社会を変えるのは政治家ではありません。変えるのは有権者です。政治家は、その意思を代弁する存在に過ぎません。だからこそ、政治を「関わりたくないもの」として遠ざけるのではなく、自分自身の生活や職業、そして地域医療を守るための“実践的なツール”として捉える必要があります。

これからの時代に必要なのは、病院の中だけを見る視点ではなく、「地域の医療インフラそのものをどう維持するか」という視点です。2040年、あなたの街で今と同じ医療は受けられるのでしょうか。そして臨床工学技士は、その変化の中で「消える職種」になるのか、それとも「地域医療を支えるキーパーソン」へ進化できるのか。いま私たちは、その分岐点に立っているのかもしれません。

理事長 肥田泰幸

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