Column No.64 『 DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用 』

はじめに
近年、医療現場におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が進展しており、業務の効率化や医療の質向上が進められてきています。DXとは、デジタル技術を活用して業務プロセスを改革し、新たな価値を生み出すことを指します。電子カルテの導入やAI(人工知能)診断、IoT(モノのインターネット)を活用した医療機器のリアルタイムモニタリング(遠隔監視)など、多くの技術が臨床の現場で活用されてきています。DXの推進により、医療機器管理の効率化、データ活用の高度化など、臨床工学技士の業務にも大きな影響を与え得るものになってきています。

DXの影響と臨床工学との融合
臨床工学技士が担ってきた代表的な業務の一つに医療機器の保守・管理があります。DXの進展によって、機器管理のデータの活用、自動化が進められます。例えば、IoTを活用することにより、遠隔監視による機器の所在管理や使用履歴の記録を取得し、機器の異常をリアルタイムで検知することも可能となります。さらには、故障予測やメンテナンス計画の最適化が可能となり、不要な機器の購入や管理負担の軽減に繋がります。

また、ビッグデータ解析により、人工呼吸器や透析用監視装置の最適な設定をAIが提案するシステムも登場しています。

DXによる業務変化
DXの進展により、機器管理業務は「単なる機器管理」から「データを活用した医療支援」へと変化することになると思われます。
・リアルタイムモニタリングの強化:IoT技術を活用し、病院内の医療機器の稼働状況を一元化、効率的な運用を行う。
・予防保守:AIを活用し、機器の故障リスクを事前に予測することで、メンテナンスを効率化する。または、リアルタイムモニタリングにより、機器の異常が発生する前に予防保守を行うことで、機器のダウンタイムを抑える。
・多職種連携:医師や看護師などとデータを共有することで、より安全で効率的に医療の質を向上させる。

求められる臨床工学技士のスキルDXを活用するために、臨床工学技士は新たなスキルを身に付ける必要があると思われます。
・データサイエンス:機器データを分析し、臨床現場で医師や看護師と共に患者支援を行う。
・AIやIoT技術:機器の制御やネットワークなどの仕組みを理解し、適切に運用する。
・情報セキュリティ:患者データの保護やサイバーセキュリティ対策の知識を取得し、セキュリティリスクへの対応を行う。
※これらDX推進には多くの時間とコストが必要となるため、段階的なDX導入や補助金の活用など、DX導入をどのように工夫して進めていくかの知識も必要となってきます。

おわりに
DXは今後さらに加速していくと考えられ、それに伴い、臨床工学技士の活躍の場はますます広がると思われます。しかし、その一方で、技術革新に対応するための知識、多職種間の情報共有の最適化など、教育や研修の充実が求められます。また、データセキュリティや個人情報保護といった課題も重要となります。臨床工学技士は医療機器管理の枠を超え、より高度な医療支援を担い、医療現場に適した形でDXを活用することが必要とされます。今後、技術の進化を的確に捉えながら、積極的に学び、成長していくことが求められると思われます。
※DXはただデジタル、制限技術を導入・推進することではなく、組織のあり方や業務プロセス、さらには企業文化の本質を変革する取り組みです。新たなテクノロジーを活用することで、従来のシステムや働き方の枠組みを超え、より効率的で柔軟な組織へと進化することが求められます。そのため、DXの本質は単なるデジタル化ではなく、組織・システムの根本的な変革です。

関東・甲信越ブロック理事 新部武人

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