Column No25「古くて新しい業務が始まった」

「臨床工学技士(CE)の8割が血液浄化業務に携わっている」これは日本臨床工学技士会の実態調査の結果で、よく聞くフレーズです。兼任している業務も含めているため高い割合となっています。この業務の内訳は、血液透析、アフェレシス治療、持続的腎代替療法が多くを占めていて、血液浄化業務のひとつで在宅医療であるPDはほとんど含まれていないと思われます。

PDの歴史は古く、1923年にGanterが初めて治療として行っています。わが国では1980年に導入され、1984年に健康保険適用となりました。ちょうど臨床工学技士法が制定される前になります。1992年にベッドでの使用を前提とした落差を利用した自動腹膜灌流装置が開発され、1995年には日本の「床に布団文化」に適合するポンプを用いた機械式のAPD(automated peritoneal dialysis)装置が開発されました。つまり、APD装置は、25年以上、腎代替療法の装置としてわが国でも使用されていたことになります。


出典:https://www.fresenius.co.jp/pdf/no05_care.pdf

私は1年ほど前からPD担当のCEとなりました。在宅医療なので当然ですが、PD患者の治療は、患者自身が行います。我々は、月に一回の外来で治療状況から家庭環境まで在宅医療に関わることを把握しなければなりません。患者のほうが慣れているAPD装置関連の相談があったり、装置のログが患者の話と合わなかったり、血液透析の業務とは全く異なると実感しました。PD業務に関わる中で、2つの疑問が出てきました。1つ目は、「PD関連業務にCEの関わりが少ないのはなぜか」です。そもそも、腎不全治療には多くのCEが関わっていますが、血液透析、移植、PDという3本柱のうちの1本であるにも関わらず、CEがPDに関わっている施設が少ないのはなぜでしょうか。血液透析患者に比べてPD患者は少ないですし、CAPDが多いので医療機器の専門家であるCEの領域ではないからかとも思いました。しかし、25年前にAPD装置が登場し、現在では普及しています。
2つ目は、「アドヒアランスを管理するためにはどうしたらよいのか」です。アドヒアランスは、治療に対して患者が積極的にかかわり、治療を行うことです。在宅医療は、患者自身の影響が高くなります。治療時間、PD液の量、回数などは患者に委ねられています。医師の指示・処方に沿った治療が行われているのか、医療者側が完全に把握するのが難しいと感じました。

この2つの疑問を解決するのは、意識改革、診療報酬、技術革新です。CEが関わっていない背景には、在宅医療機器は患者が使用できるというコンセプトで簡便に設計されていること、メーカーの手厚いサポートがあること、CEに対する診療報酬がないことだと思われます。医療法には、安全管理のための体制を確保しなければならない医療機器が定められており、PD関連装置も血液浄化装置に含まれ、管理しなければならない装置であるはずですが、前述したような理由で広まっていません。アドヒアランスの管理については、在宅中の治療を医療者が監視するわけにいきません。そんな問題を解決するのが、APD装置のログです。また、最近では遠隔モニタリング機能を備えたAPD装置が登場しました。ログだけだと、月に1回の外来受診時にアドヒアランスの悪さや各種警報などが発覚しますが、遠隔モニタリング機能があれば、リアルタイムで治療や警報の状況が把握できます。このような状況から、PD関連機器についてもCEが管理しなければならないという意識改革、それをサポートする診療報酬の追加、遠隔モニタリング機能の追加により、PD患者に対する医療の質を向上させることができると感じています。血液浄化業務に携わっているCEにとって、PDは古くからある身近な在宅医療であり、遠隔モニタリングをはじめとした新しい機能を担うべきであると感じています。

このような古くて新しい業務であるPDをはじめとした、在宅医療機器がCEによって管理され、今後登場するであろう情報技術を含めた管理業務を担うことで、CEが在宅医療に対して医療の質や安全性の向上という更なる貢献ができると感じています。
例えばここで書かせていただいたような、業務で「こうなったらいいな」を実現するため職能団体や連盟があります。是非、「こうなったらいいな」を意見としてお寄せ下さい。

関東ブロック理事 安部 貴之

 

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