Column No29 『かっこいい大人は簡単には諦めない』

電波新聞社が1982年から2003年まで刊行していた「マイコンBASICマガジン(略称:ベーマガ)」をご存知だろうか。このベーマガには、読者投稿のオリジナルのプログラムが掲載されていた。創刊当時、小学生であった私には、読者投稿のゲームプログラムが沢山掲載されたベーマガは夢の様な雑誌であった。当時のコンピューターは、今のWindows10の様な共通したOSを使っておらず、メーカーだけではなくコンピューターの機種ごとに互換性の低い数十種類のBASIC言語を使っていた。それで、どうしても、このベーマガに掲載されている読者投稿の面白そうなゲームがやりたくて、やりたくてたまらず、両親にコンピューターを買って下さいと懇願した。その当時のコンピューターは高額で子どもを3人育て、マイホームのローン返済をしている両親には無理な相談だった。子どもながらに、親の困った顔を見て無理を言うのを直ぐに諦めた。ただ、一生懸命さが伝わったのか、父は自分で買うための戦略を教えてくれた。その当時、小学4年生だったので表だってアルバイトはできず、やれると言っても新聞配達ぐらいであった。しかし、この新聞配達も中学生以上でなければダメだといった制限があった。それで父は、私には3つ年上の兄がいるのだが、兄の名前を借りてやればできることを教えてくれた。これをなんとなくカッコよく書くと、この時の目的は、お金を貯めてコンピューターを買う。戦略は、新聞配達ができるようになる。戦術は、申し込みを兄の名前を借りて行なう・・・であった。

それで実際に朝刊を配りだしたのだが、毎日清々しい朝が来るわけではなく、大雨、台風、冬場の寒風、積雪と眠気眼で簡単に出来るものではなかった。ただ、時々 朝早く新聞を配っていると、早起きの御爺さんが新聞を直接受け取ってくれ、小さいのに毎日偉いねと言ってお小遣いをくれる事があった。真面目に頑張っていると誰かがちゃんと見てくれていて応援してくれるのだとも思った。この新聞配達も小学校を卒業するまでの3年間続けた。ただ、2年目の春に3年間で目標の金額が貯まらないことに気付いたので、最後の1年は新聞代の集金も行なうようにした。集金して回ると、小さいのにしっかりしていて偉いねと褒められることもあったが、配達時間が遅いのでもう少し配達を早くして欲しいと率直に改善を求めてくる人もいて、子どもながらに明日から配達順番を如何しようかと考えることもあった。その当時、私が暮らす町には、勤労少年表彰制度があった。年に一度、中学生の勤労少年を町役場に集めて表彰することがなされていた。結果的に、私は一度も表彰されることはなかったが、小生の代わりに名前を貸してくれた兄が私の代わりに3度表彰することとなった。さすがに、後ろめたさがあったのか表彰されたくないと兄は言ったが、どうしても付属の賞品が欲しかったので必ず受けて欲しいとお願いした。それで、3年間頑張った証の、念願であったコンピューターを買ったのだが、最後に残念な間違いが起こった。目的、戦略、戦術なにも間違っていないと思っていたが、実際は目的を立てる時に間違いを犯していた。なおかつ、購入の最終決定を自分以外の誰かに(父に)委ねたのが完全に間違いだった。私が望んだ目的はベーマガに掲載されている読者投稿の面白そうなゲームが作れる機種のコンピューターを買うことであって、単にお金を貯めてコンピューターを買うことではなかったのである。欲しい機種を訊かれ、NECのPC8801シリーズが欲しいとお願いしたのに、NECのPC8001シリーズと似て非いたるモノを選んでくるとは、FM-7かMSXが欲しいとお願いすれば違った結果になったのかと、この時ばかりは、ああ無情と聖人となるしかなかった。これがこの話のオチです。それでも、BASICが使えるようになり、最初の職場では、BASICで作った手術室のデーターベースプログラムから統計や年表を作成するなど重宝がられたので役には立ったと思っています。

以上、私の思いで話を書き連ねましたが、何が言いたいかと申しますと、目的と戦略、戦術を間違えないように考えましょう。最終的な判断、決断は自分自身でやりましょう。そして、真面目に頑張っていると誰かが見てくれていて応援してくれるということです。何事も一足飛びに事は進みません。

唐突ですが、連盟に加入されない方は、社会的な臨床工学技士の立ち位置を知らないか、もしくは知っていても加入されない方は、現実を受け止めることが出来ないのだと思います。もしも、真面目に頑張っていて立ち位置を良くしたいと思うのならば、それで誰かに応援してほしいと望むのなら、現実を受け入れ納得し、自らが声を掛けができる立場になりましょう。その上で、戦略(シナリオ)と戦術(オペレーション)を一緒に考えましょう。考え、行動し、世の中を少しでも変える事は、素晴らしく楽しい事です。

連盟に加入したって、どうせ何も変わらないなんてつまらない大人が言う様なことは言わないでください。少なくとも私は簡単に望みを捨てないカッコいいあなたが見たいです。

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