Column No.56 『 合理的配慮の提供が義務化されました 』

2024年4月1日より、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されました。従来、民間事業者において合理的配慮の提供は努力義務でしたが、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、障害者差別解消法)が2021年に改正・可決され、法的に義務化されました。内閣府のリーフレットによると、”本法における「事業者」とは、商業その他の事業を行う企業や団体、店舗であり、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同じサービス等を反復継続する意思をもって行う者となります。個人事業主やボランティア活動をするグループなども「事業者」に入ります。教育、医療、福祉、公共交通等、日常生活及び社会生活全般に係る分野が広く対象となります。”という記載がございますので、私の勤め先であるクリニックや所属している技士会も範疇に入るかと存じます。恐らくこのコラムを読んでくださっている中で、ご就業中の方はほとんど該当するのではないでしょうか。

本改正に併せて、厚生労働省からは障害者差別解消法医療関係事業者向けガイドラインが改正されております。業務中、知的障害や精神障害、認知機能の低下している方に対し、本人を無視して介助者の方にばかり話しかけていませんか。大人の患者さんに対し幼児を相手にするような言葉遣いになっていませんか。わずらわしそうな態度を取っていませんか。基本的なことではございますが、改めてご留意くださいますと幸いです。本コラムでは内閣府のリーフレットの内容から、医療従事者にとっても重要な部分を抜粋し、ご説明させていただきます。

障害者差別解消法では障害のある人への障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止し、障害のある人から申出があった場合に”合理的配慮の提供”を求めることなどを通じて、共生社会、すべての人の尊厳が守られる社会の実現を目指しています。

この”合理的配慮の提供”とは、行政機関や事業者が障害のある人から「社会的なバリアを取り除いて欲しい」との申し出があった際、その実施に伴う負担が過重でない場合に、必要・合理的な配慮を講じること、とされています。障害の特性は人それぞれですので、求めたい対応は千差万別です。そのため事業者側には柔軟な対応が求められます。ここで重要なのが、合理的配慮を提供する際、申し出た障害のある人と申し出を受けた事業者との間で建設的な対話を通じて相互理解を深め、共に対応策を提案することです。

しかし、事業者にとってその申し出への対応が本来の業務に付随しない内容である場合や、費用・スタッフ面で過重な負担となる可能性があります。その際には建設的な対話を重ね、目的に応じて代替案を見つけていく必要があります。このようなプロセスを欠くと両者共に満足のいく結果にはなりません。実際に、とある映画館や飛行機会社による障害のある人への対応が報道されていたのは記憶に新しいことかと存じます。

今回、合理的配慮の提供が義務化されたことを承けて、皆様がお仕事中にご対応なさる可能性もあるかと思い、建設的な対話が重要だと記事にさせていただきました。ですが、そもそも相手の話を聞かずに否定するのは失礼な話ですよね。建設的な対話というのは社会に生きる人間として、コミュニケーションの基本ではないでしょうか。

合理的な配慮を提供する上で課題となるのは、お互いに建設的な対話の席に着くことかもしれません。話を聞いてもらえないと感じたとき、相手にどのようなアプローチをするのか。私見ではございますが、お互いにヒートアップして主張しあうのは意見のぶつけ合いになってしまいます。その際にはアンガーコントロールを意識し、物理的に距離を取ることが重要ではないでしょうか。たとえば、「上の者と相談して参りますので、少々お待ちください」と言って離れ、他のスタッフと対応策を練るのはいかがでしょうか。紙に相手の求める申し出、目的に対して実現可能な代替案を書いてお見せし、1度スタッフは席を外して、1人でゆっくりと考えてもらった上で再度話し合うのもいいかもしれません。

今回の改正は、障害のある方々が社会で生活する中で環境を大きく改善するきっかけとなるでしょう。その中には医療を受ける際の環境も含まれるかと存じます。医療従事者一人ひとりが意識を変え、合理的配慮を実践していくことで、誰もが安心して質の高い医療を受けられる社会を実現できるはずです。共に力を合わせ、よりインクルーシブな医療現場を作っていきましょう。

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