Column No21『 なんか妖怪?』

はじめに、新型コロナウイルスが世界中に広まり、日本においても感染者数が7万人を超える勢いの中、厳重な警戒が必要な状況が継続され、医療機関への負担は長期化しております。現在もたくさんの施設で人工呼吸器やECMOの操作に従事し患者の救命にあたっている臨床工学技士ならびに他の医療スタッフには心より敬意を表します。

この猛威をふるっているコロナウイルスですが、私が居住する岩手では感染者ゼロが継続していました。いろいろな情報が飛び交う中で私が気になったのが疫病をおさめると言われる妖怪アマビエです。どんな妖怪か調べてみると、肥後国(現在の熊本県)の海中に毎夜光るものが出るので、役人が視察に行くと「私は海中に住む“アマビエ”という者である。今年から六年は諸国豊作だ。しかし病が流行したら早々に私の姿を写し人々に見せなさい」と言って、海中へと入っていったと聞きました。妖怪の御利益があるとするならば、岩手には地名の由来になっている伝承と馴染みの深い妖怪がコロナから守ってくれているのではないかと勝手に考えていました。しかし残念ながら7月の下旬に初の感染者が発生してしまい、伝承や妖怪の力もここまでといったところでしょうか。

まず岩手という地名には、その昔、このあたりで悪さをしていた羅刹鬼(らせつき)という鬼がいて、困った住民がこの地に崇拝されていた大石に祈願したところ、鬼はたちまちこの石に縛り付けられ、鬼はもう二度と悪さをしないと約束し、その石(岩)に手形を押して去っていったことが岩手の地名の由来です。現在もその石が祭られている三ツ石神社には、その大石が祀られています。

また、県の中央部にある北上山地に囲まれた場所にある遠野では、明治の民俗学者である柳田國男が、この地方のたくさんの民話を編纂し「遠野物語」として紹介しており、この物語の中で座敷童(ザシキワラシ)など妖怪にまつわる逸話が数多く残されています。座敷童は子供の姿をして、目撃した者や住み着いた家へ大変な幸運をもたらしてくれると伝えられており、県北部の二戸には座敷童が住み着いている旅館もあったりします。

閉塞感が強い毎日に、感染者が現れないのは、鬼のような厄災を追い出し、繁栄を守護している妖怪の御加護があったのだと、少しでも心の安らぎを求めていたのかもしれません。
実際に感染者ゼロが続いたのは、自治体の取り組みはもちろんですが、ソーシャルディスタンスを守りやすい地理的要因や人口密度も低く人の往来も少なく、寡黙な県民性で感染者が出る事にかなりナーバスとなり、たまたま運が良く偶然が重なっただけとも言えると思います。

以前は、妖怪の様な超越的な存在を信じていましたが、残念ながら妖怪などの超常現象を経験したことはありません。でもその場面に遭遇したら、自分の力が及ばないであろう未知なる存在に対して恐怖を感じ警戒心や不安といった感情に支配されることになると思います。そういった意味ではコロナウイルスも、妖怪とは全く違うものではありますが、感染が拡大した当初は、恐怖や不安を強く感じる存在であったと思います。感染者が次第に増えていき、感染を防ぐために社会的経済活動も厳しく制限され、新しい生活様式が必要と言われ続けています。何かの問題に対してしっかりと対策しながら再検討を重ねて柔軟に新しい様式に変化していくことが以前からも肝要ではありますが、コロナウイルス関連には、いささか急な変化に大変さも感じている今日この頃でしょうか。

最後に、臨床工学技士としても新しい様式に変化していかなければなりません。正直なところ以前の私は政治について何の興味もありませんでしたが、連盟を通して政治の重要性を知り、自らの地位を継続して確立していく活動が重要であると今では理解できます。大昔に逃げた鬼は、政治への無関心という形でその当時の私に取り憑いていたのかもしれませんね。(終)

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