Column No37 『いいかげんな人間関係』について

最近、少々注意しただけで敏感に反応し、目の前で怒ったり逆に泣いたり、あげくには何とかハラスメントだと勝手に解釈し、「訴える」と言い放つ若者がいるようです(ハラスメントには明確な定義あり)。このような世知辛いご時世だからこそ、人との「いいかげんな人間関係」について述べたいと思います。

「いいかげんな人間関係」とはどういった意味でしょうか。「いいかげん」は、程々のところで終わってほしいことを表します。つまり「好い加減」です。そして「人間関係」は言わずと知れた「他者」との関わりになってきます。「他者」とは自分と違う都合で生きている人の事をいいます。ですから同僚も友人も皆、都合を持っていて、そこには必ず都合のずれが出てくることは当たり前で問題ではありません。問題となってくるのは、その違いを共有できない事であります。

私はとある関係上、日本ケア・カウンセリング協会所長である臨床心理士の品川博二先生の「いいかげんな人間関係」についての講演をほとんど毎年聞く機会があますが、その度に先生の言葉に心から感銘を受けております。良いお話なので是非とも紹介したいと思います。その講演で先生は他者との付き合いの中には「カチン」「ムカ」「グサ」の3つの音がある。「カチン」は頭で感じ理論的に反論可能、「ムカ」は胸で感じる感情、「グサ」は心臓に突き刺さり抜けずに抵抗出来なくなる状態である。ここで先生はいつも具体的な例を上げて説明されます。この事例は20数年前に当病院で講演された古い話になりますが、新幹線の喫煙車内の出来ごとが舞台となります・・・(品川先生の許可済み)。

【私は煙草がとても苦手で以前新幹線に乗った時の事、禁煙車のはずが隣の席の紳士が煙草を取り出し吸いだしました。私は一瞬カチンときて、そして美味しそうにスッパーと吐いた煙にムカっときたで丁重に注意しました。ところが周りのあちらこちらからも煙が立ち上がったのです。この時私は慄然としました。そこへ車掌が来たので確認したところ、この車両は喫煙車ということが分かりました。車掌さんは禁煙車両へ移動をすすめてくれましたが、私は移動することすらできませんでした。何故移動できなかったか検討を重ねた結果、ここでの問題は「車両を間違えた事」ではなく、「その後の自分のとった態度」にありました。それは注意した時点で自分が〇、他者が×で自分を肯定、他者を否定、という気持ちが強かったので、立場が逆転した時にそのままその気持ち≪大変申し訳ありませんが、ここは禁煙車ですので煙草は我慢して下さいと言う言葉は丁寧だが、その裏には私しか知らない『テメー死ね』というメッセージが入っていたのです≫、このメッセージが自分に跳ね返ってきたために動けなくなった。】

この事例から先生は「自己と他者」そして「肯定と否定」の関係を4つの領域に分類し、一番良い関係は、自己肯定と他者肯定である。宜しくないない関係は自己肯定と他者否定(他者を排除:イジメ)、自己否定と他者肯定(自分を否定:イジケ)である。最悪な関係は自己否定と他者否定(失関係性:引きこもり、うつ、最悪は自殺)であるとしています。

このような関係の中で日本人は昔から自己主張を下品としてきたので、自己否定、他者肯定という形で問題解決することが多くみられる。しかしこれは良い形ではない。人とのずれた部分を自他肯定の形で考えて、お互いが少しずつあわせる「いいかげん」な人間関係を保てれば良いのではないかと考えている。と、述べております。まったくその通りでございます。最近では円滑な人間関係を形成するために、アンガーマネジメント(怒りのコントロール)やレジリエンス(逆境や困難、ストレスに適応する能力)など、精神領域の学びが注目されています。それに対し臨床工学技士は養成課程において、この領域を学ぶ機会が少ない現状があります。私たちは医療機器を通じて、人と密接に関わる職種であります。その中で職務を円滑に進めるために、コミュニケーション能力が求められます。

職場において長く付き合っていれば他職種間でさえ、阿吽の呼吸の中で適当な所に落ち着き、「いいかげんな」人間関係が構築されると思います。しかし付き合いが浅く短い期間しか接していない、例えば養成校からの実習学生や入職間もない新人さんの場合は互いがまだよくわからないので慎重に観察し、ケースバイケースで対応しないと失敗する恐れがあります。

品川先生の講演を題材に展開してきましたが、まとまりのない内容になり申し訳ございません。そろそろ落ちに入りたいと思います。

この道40数年働き続けてきている高齢の臨床工学技士から、特に若い技士さんに向けて・・・・、アンガーマネジメントもレジリエンスも大事ですが、「いいかげんな」人間関係を作るにはコミュニケーションが最も大事です。苦手な上司や自分と合わない同僚は、大抵どの職場にもいるものです。そういった苦手としている人であっても、挨拶などの基本的なコミュニケーションを自分から実践し、社会人として当たり前の態度を取り続けることが肝要と思います。コミュニケーションを取るにはノミュニケーションという方法もあります。これは得手不得手があり生理的に無理な人もいるので全員にはお勧めできません。余談ですがこれが強い人ほどコミュニケーション能力が高い傾向にあるかなあと。

最後に、ここだけの話ですが最近、肥田連盟理事長と差しで乾杯する機会がありましたが、私、負けました。さすが理事長です。カンパイ(完敗)です。

関東ブロック 三浦 國男

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