Column No39 『カーボンニュートラルと臨床工学技士』

小泉進次郎前環境大臣のお話を、畦元将吾政経フォーラムで拝聴してきました。5 年後には東京で走る自動車のほとんどが EV になるそうです。「えー本当に?」。5 年前から日産リーフの愛用者で、このお正月に山口県から千葉までフェーリーで運んで来て、ようやく都会で EVを乗り始めた身としては信じがたいお話でした。まず、充電スポットが少ない。正確には急速充電スポットが少ない。ですが、少ない上に狭いし止め辛いし、ガソリンと違ってすぐに満タンになる訳ではない。山口県の田舎と比較すると、都会で EV は使い物にならないと実感していて間もなくのお話でした。

小泉氏の根拠は、「世界的に脱炭素が叫ばれる中、日本は周回遅れの対応。その理由は唯一世界をリードする自動車産業の存在がある。しかし、トヨタが“本気を出す”という言葉からも解るように、世界的潮流に逆らう事はできない。今すぐにでも歩調を合わせないと、世界中から見放されることになる。」と。さらに、「注目する点は、サウジアラビアなどの化石燃料で生計を立てている国々まで歩調を合わせてきている。これらの国々ですら、経済を支えるための政策転換を図っている。今や、脱炭素によって経済成長を模索する時代だ。」とのことである。菅首相が「日本 2050 年脱炭素」を宣言したのは記憶に新しい。世界中で起きる気候変動による災害は、温室効果ガスによる影響との説が有力で、新岸田総理も“菅宣言”を継承することを同様に宣言されたため、政策的な影響も伴って一気に加速することが予想される。「これからは脱炭素を制する者が世界を制する!」と力強く熱弁された。

なるほど、そこまでおっしゃられると納得させられた気がする。しかし、“脱炭素でワクワクする未来って”なんか寂しくないかな~。というのが正直な感想ではあったが、言いたいことは今のグローバル社会と呼ばれる世の中、世界的潮流に逆らう事は不可能だということです。新型コロナワクチンは残念な事例ですが、それに伴うサプライチェーンの影響は計り知れず、“経済安全保障”という言葉が示すよう、最近の半導体不足もその一例としてとらえられます。さて、掲題ですが、この話題と臨床工学技士を強引に結び付けてみました。キーワードは“世界的潮流”です。各国は軍備の強化を陸・海・空に加え宇宙軍・サイバー軍の5つの軍隊が配備されつつあります。国防に追加された2つは欠かせなくなっているのが世界的潮流ということです。数年前から、通信機能付き医療機器のサイバーセキュリティ対策を唱えてまいりましたが、いよいよこの分野にも世界的潮流の波が迫ってきています。我が国はIT後進国と言われるくらい、電子化への対応が進みません。医療機器の製造開発や販売を束ねる業界団体も、この問題に目を背け後回しにしてきたのが実態です。

しかし、IMDRF(International Medical Device RegulatorsForum)、すなわち、国際医療機器規制当局フォーラムの方向性から、本邦の業界団体も重い腰を上げざるを得ない状況となっています。その動きは昨年末に厚労省より発信された、「医療機器のサイバーセキュリティの確保及び徹底に係る手引書」です。業界団体はこの手引書に従った製造販売が求められるとともに、医療機関もこれを周知徹底を迫られることになります。この動きの“本気度”は、医療機器センターなどの行政機関や日本医師会なども同調しており、前述の EV 同様、景色が変わるほどの加速が予想されるのです。

さて、医療機器の専門家(スペシャリスト)を名乗る臨床工学技士がこの潮流を黙認して良いのでしょうか?AI や人工知能の進展や、構造や価値観が急速に転換する今の時代にあって、臨床工学技士も生き残りをかけた素早い対応が求められると思います。“あの、産油国ですら”、方針転換を図っているのです。

情報は比較的新しい学問と捉えられます。なぜなら今の時代を司っている多くの年配の人々は、この学問を学んでいません。病院で医師が MA に入力作業を手伝ってもらっている現状がそれを表現しています。これには診療報酬まで設定されています。我々臨床工学士には…?。ニッチな診療業務を積み上げて信頼を獲得してきた臨床工学技士、比較的年齢が若く柔軟な頭脳を持っている臨床工学技士が、この分野でイニシアティブを獲得して医療や社会に広く貢献して下さることを願望しています。

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