Colum No12「どのようにしてタスクシフトが実現されるのか」

●すべては法律によって
当然のことながら、法治国家である我が国では法律によってすべての行動が規制されています。医師も臨床工学技士もこの点では相違ありません。従って医師の働き方改革に伴うタスクシフト(業務補完)を行うには、法律の改訂に着手しなければなりません。国を挙げて取り組む訳ですから、それが如何に重みのある事か想像に容易いと思います。30年間行われなかった検討が今行われている事実は、極めて重大な転換期を迎えていると言えます。●ヒアリングと検討会
厚生労働省による「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング」は、令和元年6月17日を皮切りに30の学会や職能団体から3日間に分けて実施されました。まずは第一線で活躍する人々から意見を聴衆した形です。まな板の上で調理するための材料を買ってきたと例えても良いでしょう。そして、揃った具材を料理する場所が「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」です。タスク・シフティングがタスク・シフト/シェアに代わっているところに注目です。ただ移管するだけでなく、業務を共有する考え方を重視する方向性が示されたことになります。

●整理した項目の進め方について
検討会では、ヒアリングで集めた項目を整理するにあたり、「省令や政令、法律を改正することについて検討してはどうか。」と提言されています。その中身は、
要件① 原則として各資格法の資格の定義とそれに付随する行為の範囲内であること。
要件② その職種が担っていた従来の業務の技術的基盤の上にある隣接業務であること。
要件③ 教育カリキュラムや卒後研修などによって安全性を担保できること。 とされています。これって我々連盟が推奨する「やれるのか、できるのか、その気があるのか。」に似ていませんか?
さておき、まずは現行法に照らし合わせて業務の整理が行われ、臨床工学技士の本丸である「生命維持管理装置」という文言が重要なキーワードとなりました。
●法律の力量と整合性
法律は一つではなく、中身によって発する力が異なり、整理すると、憲法>法律>政令(法施行令)>省令(法施行規則)>条例となります。身近なところを例に挙げると、法律である労働基準法第24条(賃金支払い5原則)では、通貨で・直接・全額を・毎月1回以上・一定期日にとあります。このままでは今流行りのキャッシュレスで給与が支払われた場合、1番目の“通貨で”に反し法律違反となりますが、政令である労働基準法施行規則第7条の2の、「労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について、当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込みによることができる。」によって、整合性を保っています。今回の議論で、臨床工学技士の本丸である「生命維持管理装置」という文言が足かせになるかも知れない…と懸念されましたが、前述の事例から見ると悲観的に捉なくても良いと希望が持てます。

●世の中を動かす力
しかし、ただ指を加えたままで業務が拡大しそれに要る評価を受け、待遇改善につながるとは到底思えません。これまで先人が行ってきた臨床現場での業務開拓と安全担保、関係学会での学術研鑽、そして何より医療従事者として患者さんへのより良い治療成績のお手伝いや安全確保の実績など、一朝一夕では成し遂げることのできない信頼を積み上げてきたことが、今回の議論に参加できた最も重要な要素であると考えます。そして、やはり当事者である臨床工学技士自身が、その必要性を自ら伝えて行かない限り、世の中は認めてはくれないと思います。

●リレーコラムへ
連盟活動の趣意が少しでも多くの方に伝わって欲しいと思って始めたこのコラムも丸1年が経過しました。次回から連盟の役員で持ち回りのリレーコラムとなります。これまで同様ご愛顧いただくと共に、啓発活動の資料としてご活用くださいますよう何卒よろしくお願いします。「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ。」進化論で有名なダーウィンの名言です。臨床工学技士の進化と真価が問われる歴史的な分岐点が2020年の今年だと思います。

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