Column No1「医師の働き方改革と臨床工学技士」

そもそも、なぜ働き改革が必要なのか?方策を検討する議論は進んでいるが、その理由について公にはなっていないように思う。真実は不明であるが、どうやらその根幹は少子高齢化社会にあるようだ。2014年12月の12784万人をピークに人口減となった我が国は、高齢化比率の高まりも伴って、生産年齢人口が減少している。“モノ”を基準に幸福が評価できるのか?という疑問はさておき、資本主義社会が席巻する現在では国民総生産(GDP)が豊かさの指標とされるきらいがある。人間の欲望を満たすモノやサービスを、いかに多くしかも効率的に作ることができるかで、優れた国がどうかを評価され、そういう意味においては、昨今の我が国は決して良い評価どされていないであろう。

 

話を戻すと、人口減によって今後さらに労働力不足が懸念され、国際競争力に後れを取ることが予想される将来のために、政府が考え出した苦肉の策が女子力と壮年力、そして外国人労働者である。あの手この手で(本気でやったかどうかは置いといて…)少子化対策を講じても出生数は伸び悩み、先に述べたようなところに頼らざるを得ないところが本音であろう。事実、外国人労働者の数は日常生活でも実感として感じられ、入管法の改正は記憶に新しいところで、今後益々外国人の労働者の姿を目にする機会は増えると思われる。

 

そこで、働き方改革となる。戦後の高度経済成長時代には、男は仕事、女は家庭とある程度の役割分担が成立しており、極端な話仕事だけしておけば良いスタイルの男にとって、多少の長時間労働や時間外勤務に耐えうるだけの周囲のサポート体制が整っていたと考えられる。(あくまで私見ではあるが…)しかし、夫婦共働きとなるとそうはいかない。生産性向上に女子力を必要とする政府にとって、女子でも耐えうることができる労働環境を整える必要性が出てきた。さらに、語弊が無ければ怠け者と言われる外国人にとっては、24時間戦えますかなどと言う日本人の文化には耐え難いものがあるらしく、そこそこの世界標準に労働時間を合わせる必要がでてきたのだと言われている。

 

確かに日本の医師の労働時間は異常であると言わざるを得ない。当直ひとつとっても翌日普通に勤務している例はざらで、安全面から捉えても航空機のパイロットでは、集中力の欠如としてあり得ない話だそうだ。人の命を預かるという意味では同じなのに。厚生労働省の検討会では時間外の上限を2000時間とする案で議論されているが、この数字を日常生活に当てはめて考えると、かなりの重労働であることがわかる。そのような時代背景の大きな潮流に乗って、医師のタスクシフトが注目されているのである。従前までのチーム医療の充実とは、根本的に原点と発想が異なるのである。

 

さて、臨床工学技士はこの時代変化を漫然と眺めていて良いのであろうか?検査、薬剤、放射線など様々な医療専門職があるが、患者を目の前にして治療の最前線で医師の補助業務を行っている最も近い位置に居るのは臨床工学技士ではないのであろうか。集中治療室や手術室で高度複雑な医療機器の保守管理を担いつつ、医師や看護師の業務負担軽減に貢献できる立ち位置に居るのではないであろうか。在宅医療が拡大する中で通信技術を用いた遠隔医療技術を取り入れ、安定した環境を整備すると同時に、患者の一般状態も観察し医師に伝達できる能力を備えているのではないか。

 

ただ、「やりたい!」と宣言するだけで、実施できるほど世の中甘くない。それに相応する実力が必要であり、技術と知識さらには実績と信頼が伴わなければならない。時代の潮流に上手く乗るなら、先行して運用されつつある特定看護師制度を見習い、我々も制度設計を行って、実力と実績を積み上げる時期である。この思いは一部の人間がいくら熱くなっても屁のツッパリである。大義名分ではなく本当の意味での社会貢献と自らの存在意義の評価が得られる絶好のチャンスに来ている。これを逃すと臨床工学技士の未来は期待できない。より多くの臨床工学技士が“その気”になってくれることを強く願う。



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