「家族のような仲間」という言葉には、あたたかい支え合いや心のつながりといった、情緒的で温かな印象があります。しかしその表現には、もう一つの重要な側面があると、私は考えています。それは、**「同じ使命を持つ者同士が、職域と専門性を守るために固く結束する」**という、確固たる意志のつながりです。
特に医療の現場において、臨床工学技士という職種は、専門性の高さとは裏腹に、その存在意義や職務内容が他職種から正確に理解されにくい現実があります。生命維持管理装置の操作や管理といった責任ある仕事を担いながらも、制度設計や職域の線引きの場面では、時に不当にその役割が過小評価されたり、他職種に吸収されてしまったりすることがあります。
臨床工学技士は、人工呼吸器や透析装置、体外式膜型人工肺(ECMO)などの高度な医療機器の運用・保守・管理を担うだけでなく、安全管理や教育、さらには院内インフラの整備に至るまで、多岐にわたる業務を日々こなしています。まさに“縁の下の力持ち”として、患者の命を支える存在であり、医療チームにとって欠かせない専門職です。
しかしながら、そうした価値が常に正当に評価されるとは限りません。法制度の不備、医療機関内での誤解、あるいは経営判断による職域の再編成などによって、臨床工学技士の専門性が曖昧にされ、必要な配置がなされなかったり、十分な権限が与えられなかったりする事例も後を絶ちません。
だからこそ今、私たちが改めて大切にしなければならないのは、“ファミリーとしての仲間意識”をベースにした戦略的な連帯です。単なる感情的なつながりを超えて、「自分たちの専門性と職域を、自分たちの手で守り、発展させていく」という強い意志が求められています。
たとえば、学会や研究会での積極的な発信、団体への加入、署名活動やパブリックコメントへの参加など、一人ひとりのアクションが大きなうねりとなって、社会に対して臨床工学技士の存在を可視化していきます。それは決して他職種と対立するものではありません。むしろ、チーム医療の一翼を担う専門職としてのアイデンティティを尊重し合い、連携を深めていくための“自己主張”であり、職業倫理の表れでもあるのです。
こうした連帯を実現するためには、職場や世代を超えたつながりが不可欠です。実際、臨床工学技士の世界では、全国の仲間たちがそれぞれの立場から声を上げ、情報を共有し合い、支え合っている事例が数多く存在します。「あの人が頑張っているから、私も負けずに頑張ろう」——そんな想いが、困難な業務の中でも希望や勇気につながるのです。
また、近年では学会や地域ブロックの勉強会、オンラインフォーラムなど、物理的な距離を越えてつながるための場やツールも増えています。SNSや動画配信などを通じて、現場のリアルな声を届けたり、若手技士が先輩技士から知識や経験を学んだりすることも可能になっています。こうした「新しい支え合いのかたち」は、まさに時代に即したファミリー意識の進化形といえるでしょう。
これからの時代、技術革新やAIの進展によって医療のかたちは大きく変わっていきます。医療機器の自動化、遠隔診療の普及、多職種連携の深化など、従来の業務領域が再編される可能性も否定できません。そのような時代の転換点において、臨床工学技士という職種の意義もまた問われることになります。
そのとき重要になるのは、「何ができるか」だけでなく、「どのように連帯し、社会にその価値を発信できるか」という視点です。単に個人のスキルを高めるだけでは、職域全体を守ることはできません。制度を動かすには、声を上げる人が必要です。未来を描くには、仲間が必要です。
家族のように信頼し合い、立場を超えて支え合い、ともに未来を切り拓く——。それこそが、臨床工学技士という専門職の未来をつくる「仲間としてのファミリー」の在り方なのではないでしょうか。
今こそ、私たちはその意義を自覚し、連帯の輪を広げていく時です。そしてその輪の中心にあるべきものこそが、“仲間を思いやる心”と“専門職としての誇り”なのだと思います。
中部ブロック理事 五条 敏和