Column No16「新型コロナウイルス感染症とECMO」

新型コロナウイルス感染症と臨床工学技士

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威をふるっており、最前線におられる会員の皆様におかれましては日夜ご尽力されていることと存じます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療において、ECMOがクローズアップされ図らずも臨床工学技士の認知度が向上する結果となりました。4月には日本臨床工学技士会 本間崇理事長がフジテレビ系の報道番組に出演されるなど、その役割や必要性についても認知度が高まったのではないでしょうか。

高まる必要性と課題

しかし一方的に役割や重要性が認知されても、現場の人員不足はすぐには解消できません。急速な感染拡大に伴い、ICU病床の不足や深刻な人員不足が報告されている中、厚生労働省(新型コロナウイルス感染症対策推進本部医療体制班医療人材確保チーム, 令和2年5月8日)は、各都道府県衛生主管部(局)宛の事務連絡で、(1)現場で従事している医療従事者の離職防止(2)潜在有資格者の現場復帰の促進(3)医療現場の人材配置の転換、を主軸として取り組むことを要請しています。日本臨床工学技士会も名簿作成に取り組んでおり、地域における人材確保にむけて進めているところです。現在、感染は徐々に縮小傾向になってきていますが、他国においては感染第二波の報告もあり、長期的な対応が求められるところです。

医療崩壊の阻止にむけて

医療従事者の感染がおこると、その医療機関では感染が起きた診療科の診療を停止せねばならないほか、他の医療機関への負担増となり、医療崩壊につながるリスクが高いといわれています。特に透析医療では深刻な問題となります。このような事態を回避するためにも、普段から十分な人材を確保し、長期的な対策をとることが重要です。

良く知られている対策の例として、災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チームであるDMAT(Disaster Medical Assistance Team)があります。これは厚生労働省が主体となって平時からトレーニングをおこない、いざ災害発生となれば全国から医療チームを招集派遣が可能なシステムとなっています。このシステムにおいても臨床工学技士は重要な役割を果たしていますが、COVID-19においては、人工呼吸器やECMOの取り扱いができ、従来の医療システムから更に専門性の高い人材が求められます。臨床工学技士は様々な医療職種の中で、唯一これらの装置について専門教育を受けた人材であることも認知されなくてはなりません。そして今回COVID-19のような臨床工学技士の取り扱う分野である人工呼吸器やECMOが特に重要となるパンデミックにおいて、臨床工学技士が主体となって厚生労働省や各自治体をはじめ、他の医療職種や医療機器業界との連携を深め、協力体制、支援制度を構築することで、第二波、第三波に備える必要があるのではないでしょうか。

集中医療体制の強化

日本臨床工学技士連盟では、従来から医療機関における臨床工学技士の「適正配置」を強く要望しているところです。特に集中治療領域では連盟活動の成果のひとつとして、臨床工学技士の24時間配置が診療報酬に反映される結果となったわけですが、COVID-19の対策についても臨床工学技士の必要性や適正な配置について訴えていく必要があります。

ただし、医療機関では新たな人材を雇用する場合は、相応の対価が必要となりますので、ただ医療機関に雇用を懇請したとしても無理なわけです。国民皆保険制度である我が国にとっては、新たな雇用を産むには診療報酬という対価があってこそ成り立ちます。したがって、そこは政府をはじめ厚生労働省などの政治の場に委ねられることになります。よって各種委員会や部会を通じて臨床工学技士全体の意見を反映させる必要があります。

日本臨床工学技士連盟の役割

現在、臨床現場の皆さんはCOVID-19という見えない敵と日夜戦われている訳ですが、医療人としての使命の前に一人の社会生活を営む一人の人間でもあります。そのため最前線(特に臨床工学技士は危険度が高い)にいる私たちは十分な補償があってこそ、その使命を全うできる環境が整うのではないでしょうか。私たち臨床工学技士連盟は、このように皆さんの現場の声を政治の場に届けることが役割です。一人でも多くの臨床工学技士のお声をいただきながら、一緒に臨床工学技士がもっと胸を張って使命を果たせる未来を作っていきたいと考えています。

Column No16